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2021年4月23日金曜日

老人の無駄足





 美味しいラーメンが食べたくなったので、『櫻島』まで車を走らせることにした。櫻島までは、札幌を南東から北西に横断することになる。
 横断するなら、途中に街で買い物をすることにして、駐車場に車を入れることにした。ならば、大通り公園にも行ける。古くなったパンや、冷凍していて長期間経ってしまった御飯などを大通り公園の鳩たちにやることにした。観光客が激減して、大通り公園の鳩たちも困っていることだろう。ここはひとつ、エサをやりに行こう、と。
 さて、街で買い物を終えて、テレビ塔の下までやってきて、鳩にエサをやることにした。ベンチに腰掛け、リュックのファスナーを開いて中をゴソゴソする。その見覚えのある姿に、一匹の鳩が早速私の足元にやってきて、何か食べ物が与えられる期待に胸を膨らませてチョコチョコと歩き出していた。
 ところが、リュックを探っても、パンと御飯を入れたビニール袋が見当たらない。リュックの中身を全てベンチに出してみたけれども、無いのである。つまり、肝心のビニール袋を、家のテーブルの上に置き忘れてきた、というわけ。
 足元を歩き回っていた鳩は、チッと舌打ちをして「老いぼれジジイ」と悪態をついてから、どこかへ消えてしまった。
 最近、物忘れが多くなったのである。記憶障害だけではなく、物理的な「物」をあちこちに忘れてくるようになった。こうして鳩にまでバカにされるようになってしまった。

 気を取り直して、西区西野にある『櫻島』まで行く。昼食の時間帯には行列のできる店だけれども、午後4時前後のその時間には私の他には客は一人もいなかった。ラーメンを食べたあと、店の大将に声をかけた。
「先日函館に行ったときに、『櫻島』の店を見つけたけど、あそこはお弟子さんが開いたの?」
 すると大将は(この大将のラーメンを私は少なくとも30年以上は食べている)嬉しそうににっこり笑って、
「息子がやってるんですよ」
 と答えた。
 ラーメン櫻島・函館五稜郭店、である。私が行ったときは日曜日の夜だったので閉店時間を過ぎていた(日曜は午後8時)が、今度函館に行ったときには入ってみることにした。

 鳩にはまた日を改めてエサをやりに行くことにした。