1962年生まれ
2001年直木賞受賞
2003年うつ病発症
2007年『再婚生活』刊
2021年3月膵臓癌と診断され10月没
日々是作文(2004年・文芸春秋社)
(P322) 万人が一人暮らしをする必要はないことは確かだが、もし私が誰かに「一人暮らしをしようかと思っている」と相談を持ちかけられたら、きっと大賛成するだろう。それは私個人が一人暮らしで得たことの想像以上の大きさに驚いているからだ。十代の頃から、私は早く一人暮らしがしたいと思っていた。社会人になったらすぐ、と考えていたのだが、実際そうなっても踏み切れなかった理由はただひとつ、お金のことである。社会人になったばかりの私は大人っぽい洋服をいくらでも買いそろえたい盛りだったし、お酒が好きで友達や同僚と飲みにいくのが楽しく、しかも週末は同年代のボーイフレンドとデートをしていた。少ない給料は洋服と交際費でパーである。とても一人暮らしどころではない。
やっと実家を出たのは結婚した二十五歳の時で、仕事の忙しい彼にかわって私が新居のアパートを探し、契約をして敷金礼金を払い、電気やガスや水道をひき、家具を買いそろえた。全て初めての経験である。最初は不安だったが、やればできるじゃないかという自信と達成感を持った。しかし最初は幸せだった結婚生活が、金銭的に余裕があるとは言えなかったので(もちろん楽しいことの方が多かったが)お金のことで喧嘩になったことが何度かあり、それが破綻の一因になった。
その後六年で私は離婚し、一度実家に出戻り二年間住まわせてもらった。
その後六年で私は離婚し、一度実家に出戻り二年間住まわせてもらった。