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2021年3月21日日曜日

洞爺サンパレス









  東京に住む友人と話してみて、伊東に行くならハトヤ、という歌が刷り込まれていることを知る。


 ところで、時期はもう少し新しいけれども、つい10年くらい前までは(?)、北海道のテレビでは繰り返し繰り返し洞爺サンパレスの宣伝が流れていて、すっかりその歌詞、「ここはお風呂の遊園地 なんてったって宇宙一 行ってみたいなサンパレス サンパーレスー」が「道民」すべての頭に刷り込まれている。


 でも、私は一度もこのホテルに行ったことがない。
 あと半年で私も63歳になるし、いつ不慮の事故に遭うやもしれない。気になるところがあれば、元気なうちに「かたづけてしまおう」と思い、Nに会いに函館に行く機会を利用して、その途中の宿としてサンパレスを予約した。ちょうど一人で宿泊できるプランがあり、安かったのである。税込7623円で、二食付き。二食といっても朝夕ともに「バイキング」である。
 10年前、Nが定年退職をして函館に引越しをすることになり、定年祝いを兼ねて定山渓のホテルに泊まったことがある。万世閣ホテルミリオーネ。
 10年前である、もうすっかり変わっているかもしれない。すっかり「改善されているかもしれない」。
 二人で宿泊したのだけれども、チェックインしてしばらくすると、部屋のドアをノッックする人がいる。ドアを開けると、中年の女性従業員がwriting board を手にして入ってきた。彼女が言うには、今夜の食事はバイキングだけれども、特別に料理を注文するのならそれを先に伺いたい、とのこと。カニとかステーキとか、何枚かの写真を見せてくれて、注文するなら今伺いたい、という。高い料理だった。私とNは、バイキングの料理をたくさん食べる気がマンマンだったので、それ以外の料理に金を払ってまで食べる気持ちはなかった。特別料理は注文しませんと話して、女性従業員にはお引き取り願った。
 さて、夕方のバイキングに言ってみて、驚いた。たくさんの料理が並んでいる。たくさんの種類、豊富な量。
 ところが、どれもこれも、美味しくないのである。
 いや、ひとつくらい、美味しい料理があるだろうと思ってあれこれ食べてみたのだけれども、そしてひとつでもあればそれをたくさん食べればいいと思ったのだけれども、ひとつとして美味しいものはない、不味いか、味がしないか、どのどちらかだった。
 恐らく数十種類の料理があっただろうに、そして主食となってもおかしくないものは20種類くらいはあったろうに(それだけ食べて我慢できるような主食)、どれもこれも本当に不味いか味がしないのである。
 これほど多くのダメな料理ばかりをバイキングに出せるということは、一種の「才能」なのかもしれないと感心した。道理で、バイキングが始まる前に「特別料理の注文を取りに来る」のも頷くことができた。
 繰り返すけれども、10年前の話である。
 今は改善されているのかもしれない。
 中山峠を通るときには、必ずこのホテルの前を通って、立派な建物を目にするけれども、いつも10年前のNの定年退職祝いの宿泊の悲惨さを思い出して苦笑している。
 万世閣には、洞爺湖と登別温泉にもある。どちらも何度か泊まったことがあるけれども、定山渓万世閣ホテルミリオーネとは違って、ある程度はまともな料理を出すバイキングである。この定山渓だけは、もう二度と決して行かないと、10年前に誓っている。

 バイキングの夕食というものは、選び歩き疲れるし、まるで「餓鬼」のように大量の食べ物をテーブルにならべて「がっついている」客たちの姿を見るのもゲンナリなので、できるだけ選択しないようにしていた。
 しかし、洞爺サンパレスの7000円台の宿泊プランでは、もうそんなことに文句も言っていられない。たとえホテルミリオーネなみの悲惨なものだったとしても、我慢するしかない、と腹を括っていた。


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