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2022年4月9日土曜日

クロワッサン症候群 神田沙也加

仲良く札幌の街を歩く母娘

ホテルモントレエーデルホフ札幌の中の結婚式のための教会



結婚式を挙げた夫婦の名前を刻んだ金のパネル


松原惇子 「クロワッサン症候群」(1988)以下はその文庫本よりの引用

P234〜 ひと昔前までは、女優は子供を産むことを隠していたものだった。それが、今は、子供を産んだことがステイタスになっている。子供を産んでいかにも幸福そうな女優の姿をみていれば、つい、私も、と心が動かされてもしかたがないことである。
 マタニティ雑誌の出現により、妊娠出産は今や女の子のあこがれになっている。もちろん雑誌だけの影響ではないが、マタニティ雑誌の創刊ラッシュがそのことを裏付けていることは確
かだ。
 今や女性誌の主役は、妊娠出産女優たちである。現実に、最近の二十代の女性の結婚願望は強い。ある社会学の先生にいわせると、今の若い人は、私たち旧人類とはちがい、結婚を人生の一つのパーツとして考え、冷静な目で結婚をみているという。単に保守的になったのとは意味あいがちがう、ということだ。
 つまり、今の若い人たちは、わかりやすくいえば松田聖子型の結婚を望んでいるらしい。一生食いっぱぐれのない男と結婚し、子供もきちんと産んで、子供にかわいい格好をさせて、仕事もやらせてもらう。シングルの生活をそのままひきずることのできる結婚生活を今の女の子たちは望んでいるようだ。聖子ママをみていればよくわかる。彼女は子供は産んでも、母親ではない。
 現代の若い女性たちの生き方モデルは、妊娠出産女優。もはや、キャリアでがんばろうというのは時代遅れなのである。もちろん、中にはキャリア志向の若い人もいるが、全面に自分の生き方をだすと友達に嫌われるので、小さくなっている。すなわち若い人たちの間でもシングルキャリアウーマンはいまやマイナーなのである。
 一九八〇年から八八年にかけて、女性誌の主役はガラリと変ってしまった。桐島洋子から、いつのまにか松田聖子、アグネスチャンにバトンは渡されていた。
 働く女性、自立した女性の姿は、各女性誌から見事に姿を消し、妊娠出産女優が闊歩している。もう、どこにも「女の生き方」を問う女性誌はなくなってしまったのである。

P236〜〔1988年2月から5月の「クロワッサン」目次を紹介してから〕
 ずいぶん変わったっものである。どこのページを広げてみても、女の生き方を問う記事はない。あれだけ、女たちを騒がせ動揺させたのに、もう、キャリアウーマンを応援する記事はどこにもない。
 結婚しない生き方?  それ何のことだっけ?
 最近の「クロワッサン」は、お料理、美容と健康などのあたりさわりのない記事ばかりである。
「クロワッサン」から、いつの間にか生き方記事が消えてなくなったように、クロワッサン御用達文化人の顔ぶれも、すっかり変ってしまった。
 桐島洋子、犬養智子、澤地久枝さんなどの結婚失敗組、筋金入りシングルキャリアウーマンは姿を消し、その代りに、既婚で子持ち、仕事もやっていて、それでいてオシャレ、一言でいえば、聖子ママのお姉さん版の有名人たちが顔をつらねている。
 イギリス人の夫を持ち、三人の美しいお嬢さんに恵まれ、夏はカナダに購入した島に一家ででかけるオシャレで優雅な作家の森瑤子さん。
 作曲家の加藤和彦氏と結婚し、グルメでオシャレ、文字通りステキなDINKS(double income no kids=子供のいない共稼ぎ夫婦)を満喫している作詩家の安井かずみさん。
 お料理上手な和田誠さん家の妻、平野レミさん。塩田丸男氏の妻のミチルさんも、お料理のページには必ず登場する。
 いつ本業の医者の仕事をしているのかと心配になるほど登場するファッショナブルな村崎芙蓉子さん。


▲:何かの本を読んでいて(何かは忘れた)、「クロワッサン症候群」という言葉を見つけたとき、そういえばその本を読んでいないことに気づいた。文庫本は買っておいたはずだけれども、自分の蔵書の海(荒れ狂う海)からは発見できそうもないので、図書館から借りて読んだ。
 ずいぶん考えなしに(?)文章を書く女性だなと呆れた。特に、インタビューを受けてくれた女性に対する辛辣な、というよりも、ただただ「無神経な」感想を書き連ねていることに驚いた。続編を読むと、この松原惇子という作家は、インタビューを受けてくれた女性たちから怒鳴り込まれたり、あやうく訴訟沙汰にまでなったのだということを(これも無神経に)書いていたのだけれども、当然だろうなぁと思われた。
 松田聖子のことに言及した文章が引っかかった。
「彼女は子供を産んでも母親ではない」

 その子供である「神田沙也加」が死んだ、おそらく自殺したのは去年、札幌でのことである。以下はウィキよりの引用。

2021年12月18日、札幌市内の宿泊先ホテルの14階屋外にあるスペースに倒れているところを発見され、意識不明の状態で市内の病院に搬送されたが、同日21時40分に死亡が確認された[2][56][57]。35歳没。神田は朝夏まなととのダブル主演ミュージカル『マイ・フェア・レディ』の正午公演に出演するために同ホテル最上階の22階スイートルームに滞在していたとされ[58]、当日の11時頃になっても神田と連絡が取れなかった[注 2]ため[60]、関係者から110番通報を受けた北海道警札幌中央署がホテルを捜索したところ、約2時間後に14階屋外スペースで靴を履かず雪に埋もれ[61]体から血が流れて倒れていた状態で発見され、既に心肺停止状態だったという[2][62][63]。北海道警は死因について高所から転落したことによる外傷性ショックと発表した[63][64]。所属事務所は転落の原因については故人の名誉と周囲への影響を踏まえて公表を控えるとした[65]。(引用終わり)

 クロワッサン症候群とは関係ないけれども、神田沙也加はどんな、幼年時代、少女時代を送ったのだろうかと、ふと思った。
 いろいろなネット記事を読むと、彼女の精神が決して安らぎのない不安定なものだったことが容易に推測することができる。恋人の暴言云々はさておき、神田沙也加の精神はもとから不安定だった。それが転落死・おそらく自殺、と関係なかったとは考えられない。
 彼女が転落した夜の札幌は、猛吹雪だった。22階の窓からは、天に突き刺さったように飛び出ているその窓からは、荒れ吹雪く雪以外は何も見えなかっただろう。
 不思議なことに、北海道警察は「ホテルに過失はない」と、はやばやと発表していた。
 ホテル側に過失が無ければ、また同じように窓から転落する人が出てもおかしくはない。

 実は、神田沙也加の事件の半年前、去年の6月に私はこのホテルの22階に泊まっている。もっとも、スイートルームのある部屋は別区画になっていて、私が泊まった比較的安い部屋のキーではその区画に入ることはできない。ただ、高さは同じである。あんなに高い場所にある部屋の窓が開き、しかも大人が通り抜けることができるようになっていたということが、信じられ無い。私が泊まった安い部屋の窓は、幸いにも、1センチも開けることはできなかったように記憶している。